正倉院に、黒柿造りの厨子がある。これは現代の名工によって復元されたものではあるが、千数百年を経ても人の胸を打つ逸品とされる。
おかや木芸の岡英司さんが作る木工品の素材は、半分が黒柿、残りが栗と欅である。すでに十数年、黒柿の魅力に取り付かれているのだとか。
そもそも、黒柿とはなんであるのか。これは樹木の名称ではない。樹齢を重ねた柿の木の中で、土壌に含まれる金属や木の内部で進行した微生物の影響によって色素が蓄積され、また微妙な変容を遂げた末に生じた状態を指す。だから、日本全国にある柿の木が、樹齢100年を越えていれば黒柿である可能性は高い。しかし、こればかりは、切ってみなければわからない。樹齢300年を越せば、今度は中心に穴があいて使えないかもしれないのだ。材木屋泣かせの素材といえる。
中でも珍重されるのは、黒い縞を呈する縞柿。その黒い縞は、風景画の山並みのように、また抽象画のようにも見える。
岡さんが黒柿に取り付かれたのは、地元松江の月照寺、代々の藩主が眠るこの寺の宝物展示館で、松平不昧公が職人に作らせた見事な縞の黒柿の箱を見たせいもある。以来、名工の作品の蒐集にも励んだ。それらを参考にし、目指しもして、黒柿の作品を作り続けている。
だからもちろん、茶道の道具も作るが、15年作り続けた木の匙や靴べらなどの小物、家具調度などの生活用品もある。全国でもあまり作る人がいないこの特殊な素材は、入手も簡単ではなく、乾燥も難しいのだが、素材の美しさには代えがたいものがあり、「黒柿は名工のみに許される」とされるのも納得できるのだ。
おかや木芸は、この黒柿をはじめ、栗や欅の木工品を展示販売する店とギャラリーを有する。店では、現代の生活スタイルに合わせて、テーブルセッティングなどもして岡さんの作品を紹介する。店の裏では茶花を栽培し、それをテーブルに飾る。顧客が自分の家で咲かせた花を持ってきて、飾ってほしいということもある。この店が、ユーザーとの接点となり、コミュニケーションの場ともなっているのである。





